医師のドロップアウト理由トップ10&ドロップアウトする先は?

立派な医師とは、どんな医師でしょうか。王道の道筋でキャリアを積み、出世してこそ一人前の医師なのでしょうか。
医師は勝ち組の職業のように見られがちですが、その業務は多忙で過労気味…。
収入が割に合わないと感じている人も少なくありません。
〈この記事を読んでわかる内容〉
- 転職をした医師の年齢層
- 医師が転職をした理由TOP10
- ドロップアウトする前に考えてほしいこと
- ドロップアウトして産業医になると
- ドロップアウトしてクリニックに勤めると
ドロップアウトしないまでも、研修医でバーンアウトや抗鬱状態になってしまう人がいるほどの職業ですから、転職を考える人もいるでしょう。
この記事では、医師のドロップアウト、転職の理由や転職先について言及します。
医師のドロップアウト
ドロップアウトとは本来「脱落」という意味の言葉ですが、医師が転職をする際にもドロップアウトという表現が用いられることがあります。
医師の中には、「医局内でのキャリアを積むのが医師としての成功の道筋であり、別の道を歩む医師は脱落をした者だ」という考えの人もいることから、このような差別的な表現になってしまったのでしょう。
しかし近年では、大学医局への入居者が減少したり、女性医師が増加したりするために、医師を取り巻く常識が変化しつつあります。医師だからといって、昔の正統派ルートをたどらなければいけないという決まりはありません。
研修医でも病気や産休を理由に休む医師もいますし、自身のライフ・ワーク・バランスを考えて転職をする医師も増えてきています。
ドロップアウトすること自体が悪いことではないことを踏まえて、以下を読み進めてください。
医師が転職をする年齢
大学は6年の医学部に進み、長い時間と労力をかけて医師になった人達が転職を検討し、実際に転職を行うタイミングは、何歳の頃になるのでしょうか。
転職をした医師の年齢別の割合を確認してみましょう。
年齢層 | 割合 |
---|---|
~29歳 | 0.4% |
30~34歳 | 9.0% |
35~39歳 | 18.4% |
40~44歳 | 20.8% |
45~49歳 | 16.2% |
50~54歳 | 11.8% |
55~59歳 | 10.7% |
60~64歳 | 5.7% |
65歳~ | 6.5% |
不明 | 0.6% |
参照:医師転職研究所(医師の転職=ドロップアウト?紹介会社を利用して転職する医師の実態とは?|2016年4月)
「30代後半から40代」にかけての年齢層の医師が転職をしているので、医師の経験年数としては「10年~20年目」になるタイミングとなります。
医師として一人前になる頃であり、転職しやすい状況になると考えられます。
また自身のキャリアを考える年齢でもあり、働き方を見直すために働き方を考える医師が増えるのでしょう。
医師が転職をする理由
他の職業の人やサラリーマンと同じように、医師だって転職を考えるタイミングがあります。
実際に転職を経験した医師の、転職理由トップ10はこのようになります。
参照:医師転職研究所(医師の転職=ドロップアウト?紹介会社を利用して転職する医師の実態とは?|2016年4月)
- 1位|家庭や生活事情
- 2位|大学病院・医局を辞める・離れる
- 3位|勤務の負担が大きすぎる
- 4位|職場環境や人間関係の問題
- 5位|給与や待遇が納得できない
- 6位|自身のスキルアップや専門性を考えた
- 7位|やりがいが感じられない
- 8位|勤務時間が長すぎる
- 9位|プライベートな理由での転居
- 10位|転科を考えているため
1位|家庭や生活事情
医師の転職理由として最も多いのが、家庭や生活事情といったプライベートな問題です。
女性医師も増えていますので、出産を機に転職を考えたり、子育てのしやすい環境を求めて転職する医師が多いようです。
医師は拘束時間が長く、体力的にも過酷な環境での仕事といえます。「子どもの成長を見守りたい」「子育てしやすい近所で職場を探したい」と感じる人が多いのかもしれません。
2位|大学病院・医局を辞める・離れる
医師として大学医局に入局したものの、「突然の異動に疲れてしまった」「人間関係で悩みを抱えている」という方による転職動機になります。
他にも、専門医や学位を取得している状態の場合、医局にいる理由がなくなってしまうという意見もありました。
また教授の退任に合わせて、医局を離れるという医師もいるようです。
3位|勤務の負担が大きすぎる
医師は時に人の命にも関わる処置が必要になる仕事で、緊急の対応に備えておかなければいけないという負担もあります。
「オンコールに疲れてしまった」「退職した医師の業務が負担になっている」という意見があり、体力的な不安が理由で退職するというケースもあるようです。
また当直になると専門以外の患者を診る必要もあり、休みなく外来やオペが続く状態に大きな負担を感じる人が多いようです。
4位|職場環境や人間関係の問題
医師でなくどんな職場であったとしても、人間関係は大切です。
「上司である医師とそりが合わない」「理事長がワンマンで他の医師が辞めていく」という人間関係の問題は転職の大きな理由になります。
職場環境としては、勤めている病院の環境が不衛生であるとか、患者さんの客層という点が挙げられます。
患者さんとトラブルが多い病院では、ただでさえ忙しい中、対応が負担に感じる医師がいても不思議ではないでしょう。
5位|給与や待遇が納得できない
医師は高収入のイメージがある職業ですが、仕事の負担を考えると割に合わないと感じる人も少なくありません。
激務でありながら、年収が上がらないと頭を抱えて転職を決断する医師もいるのです。
ライフステージが上がるにつれて、子どもの教育費が必要になる、親の介護の費用がかかる、という理由で、より給料のよい病院へ転職するケースもあります。
6位|自身のスキルアップや専門性を考えた
医師としてのスキルアップを考えると、転職をした方が将来のためになる場合もあります。
例えば、「麻酔科医なのに手術件数が減少している」「開業を視野に入れているので経営スキルも身に着けたい」という理由です。
7位|やりがいが感じられない
医師としてのやりがい、専門医としてのスキルや経験を活かしたいと考え、転職を決意する医師もいます。
「医師なのに管理業務で手がいっぱい」「医師の不足している田舎で活躍したい」など、もっと自身が必要とされるべき場所で活躍したいという気持ちがあるのでしょう。
8位|勤務時間が長すぎる
医師の悩みとして常に課題になるのが、勤務時間の長さです。
当直が多い上に休日も呼び出される、という状態ですと、家族との時間を楽しむどころか、疲れをとってリフレッシュする暇もありません。
9位|プライベートな理由での転居
「地元に戻りたい」というプライベートな転居により、転職をする医師もいます。
また地域によって患者層がどう違うのかといった探求心で転居をするケースもあります。
10位|転科を考えているため
現在の診療科に不満を抱えていたり、将来のビジョンを考えた時に、転科を考える医師もいるでしょう。
新しい技術を身に着ける時間がかかりますので、転科をするなら早めの決断が吉となるでしょう。
研修医がドロップアウトをする前に
「研修が辛い」「そもそも医師に向いていなかったのかも」とドロップアウトを考えている研修医も多くいます。
初期研修医の段階では頑張れていたけれど、専門科に入った後期研修医では、辛さを噛み締めているという話もあります。
研修医でドロップアウトをする前に、これらのポイントを考えてみてください。
- 専門医を取る必要があるか考える
- 指導医のハラスメントは抱え込まない
- 体調不良で休むのも一案
専門医を取る必要があるか考える
専門医は本当に取る必要があるのでしょうか。
「専門医を取らないなんてあり得ない」「みんなが取ってるから」という理由で、流されてはいませんか?
専門医を取るメリットはこれらの内容が考えられます。
- 開業時に標榜できる
- 将来部長や教授になりたい
- 専門医必須の求人にも応募できる
もちろんメリットはありますが、自分に必要なのかを考えるのが重要です。専門医は更新に時間もお金もかかりますし、学会へも参加しなくてはいけません。
ドロップアウトをする前に、ここまでして専門医が必要なのかをもう一度考えてみましょう。
指導医のハラスメントは抱え込まない
研修医であれば、指導医と過ごす時間が長くなりますので、ハラスメントがあれば精神的な負担がかかるのは当然です。
「自分が悪い」「自分が仕事ができないからだ」と抱え込まずに、医長やプログラム統括責任者に相談してください。
ハラスメントが実際に行われていたのかという事実確認をされますので、言われた言葉の内容など、ハラスメントの内容を控えておくようにしましょう。
体調不良で休むのも一案
ドロップアウトしてしまいたいくらい心身共に疲弊しきっているという状態であれば、精神的に病んでいる時は、決断力も鈍ってしまう危険がありますから、思い切ってまとまった休みをもらうのも一案です。
ただし同じ職場で復職するのであれば、同じように疲弊してしまわないよう未然に対策をしてから復帰できるよう調整する必要もあります。
当直や入院患者の受け持ち人数など、制限をつけて交渉することで、働きやすい環境を獲得していきましょう。
ドロップアウトして産業医になる
産業医は「定時で帰れて楽そう」「土日は休めて魅力的」と、楽そうなイメージを持たれる場合が多いです。
しかし安易な気持ちで産業医になると理想とのギャップが生じてしまう可能性がありますので、メリットやデメリットについて考えてみましょう。
- 産業医のメリット
- 産業医のデメリット
産業医のメリット
産業医のメリットとしては、これらの内容が挙げられます。
- QOMLが高い
- 仕事が難しいものではない
- 時間の自由がある
- バイトもできる
産業医は土日に休みがとれますし、時間外の呼び出しもないので、QOMLが高く働きやすい職場だといえます。
仕事内容も社員さんとの面談が主であり、臨床医の経験があればさほど難しい内容ではないと言っていいでしょう。
また何より魅力的なのは、時間の自由が利くという点です。
「トイレに行く時間もない」「食事もできない」というほどの忙しさは稀です。
オンライン診療などのアルバイトも気兼ねなく入れられるというメリットもあります。
産業医のデメリット
産業医のメリットがある一方で、デメリットもありますので覚えておきましょう。
- 雇用形態が不安定
- 臨床医としての信頼に欠ける
- デスクワークが多くなる
- 社員さんとのコミュニケーションが必要
産業医は1年で契約更新が必要になる「嘱託契約」が一般的です。毎年契約更新の必要があるというのは、逆に言えば、契約を切られてしまう危険もあるということになります。
臨床医としてバイトをしようとすると、「産業医に勤まるのか」と感じられてしまう可能性がありますので注意が必要です。
ドロップアウトしてクリニックを選ぶ
産業医にはメリット・デメリットがありますが、クリニックはどうでしょうか。
クリニックでのメリットやデメリットについても確認しておきましょう。
- クリニックで働くメリット
- クリニックで働くデメリット
クリニックで働くメリット
地域の重要な医療機関となるクリニックで医師として働くメリットは、こちらです。
- 点数を意識した診察ができるようになる
- 外来診察のスピードが上がる
- 当直がない
- 入院患者がいないので夜勤がない
外来だけのお客さんがほとんどですから、あっという間に数十人待ちという状況になり、それらをさばいていく必要があります。大きな病院で勤務していると、点数は気にしないですが、クリニックだと点数を稼いでいくという意識も必要になります。意外とこれもひとつのスキルと言えるのではないでしょうか。
とはいえ、大きな病院よりも丁寧に接しながら、患者さんの目的を満たす診察ができるようになっていきますから、比較的、精神的安定が保たれやすいかもしれません。
またクリニックは、当直の必要性もないし、入院患者もいません。ゆっくりと休む時間がとれます。
クリニックで働くデメリット
一方、クリニックで働くとこのようなデメリットがあります。
- 達成感を感じにくい
- 危険な患者さんに遭遇する可能性がある
クリニックは大病院のような手術はありませんし、達成感を感じられるシーンは少なくなります。今まで難しい患者さんを担当していた医師ほど、物足りなさを感じてしまうかもしれません。
またクリニックの患者さんによっては、暴言や暴力が出る可能性もあります。
警備員や守衛がいない中、医師であっても自分の身を守らなければいけなくなる時もあるかもしれません。
医師だってドロップアウトしてもいい
医師になるまでにすでに相当な苦労をしてきているので、「せっかく医師になったのに」「もったいない」といわれてしまうかもしれません。
しかし医師だから必ずこうしなければいけない、という概念はもう古いといっても良いでしょう。自分自身を守るため、働き方をよりよくするため、ドロップアウトはポジティブな選択であると捉えてみましょう。
医師であっても転職をして、多くの環境を経験するべきです。将来の自分をしっかりと考え、ベストな選択をしていけるようにしましょう。