開業だけでじゃない医師起業の選択肢&成功のポイント

医師として勤務医を経た後、起業を考えている人は多いでしょう。
以前は、開業医となり医師として起業をするという考え方が一般的でした。
しかしインターネットが普及した昨今では、ビジネスパーソンとしての起業のスタイルが注目されています。
医師としての経験やスキルを活かした起業は、クリニックの開業にとどまりません。
ビジネスパーソンとして起業するには、どのようなスキルが必要であり、どのように起業させればリスクを抑えられるのでしょうか。
医師の起業の選択肢や、問題点などについてまとめました。
医師起業の選択肢
大学病院や総合病院で勤務医を経験した後に、起業を考えているという医師も少なくありません。
医師にとっての起業とは、以下のような2つの選択肢があります。
- クリニックの開業医
- 医師のスキルや経験を活かした企業
クリニックの開業医
医師の起業として、多くの人がイメージするのが
クリニックの開業医です。
雇用されていた勤務医とは違い、自分でクリニックを経営していかなければいけません。
病院経営が軌道に乗れば収入も増えていくでしょうが、その分、責任を問われる覚悟が必要です。
勤務医と開業医の収入の差
起業し、開業医となると、どのくらい収入に変化があるのでしょうか。
勤務医と開業医の年収は、具体的にこのようなデータがでています。
勤務医 | 約1,491万円 |
開業医 | 約2,763万円 |
(参照:医療経済実態調査(医療機関等調査))
開業医になると勤務医よりも年収がアップすると期待できます。
ただし起業すると個人事業主となりますので、社会保険料や税金といった面も考慮しなければいけません。
医師のスキルや経験を活かした起業
開業医となる医師がいる一方で、臨床以外のフィールドで起業をしようとする医師が増加傾向にあります。
医師の資格やスキル、経験があれば、以下のような起業も可能です。
- オンラインの診療システムの開発
- 医師の検索サービスの運営
- 依存症治療アプリの開発
- 医師のコミュニティサイトの運営
このようにインターネットの普及により、ビジネスパーソンとして医師が活躍の場を広げつつあります。
起業してクリニックを開業する理由
開業医となれば必ず成功するというわけでもなく、廃業してしまうクリニックもあります。
リスクもある中、起業しクリニックを開業するのはなぜでしょうか。
日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の 実情に関するアンケート調査」の調査によると、開業の理由トップ3は以下のようになっています。
- 理想の医療を追求したいから(42.4%)
- 勤務医に限界を感じたから(35.1%)
- 経営などのやりがいを求めたから(26.3%)
理想の医療を追求したいから
クリニック開業で第一位となったのが、理想の医療を追求したいという理由で42.4%でした。
患者さんへの接し方や診療方針は、病院ごとに異なります。
勤務医であれば医局や勤務先の病院の方針に従わなければいけませんが、開業医であれば自分の理想を叶えられると考えるからです。
勤務医に限界を感じたから
将来に限界を感じて開業をしたという開業医も少なくありません。
勤務医に限界を感じるという表現になっていますが、出世や勤務環境などが具体的な背景にあると考えられます。
精神的にも肉体的にも負担がかかる勤務医ですが、開業医であれば人間関係のストレス軽減が予想でき、勤務時間も自由に決められるからです。
経営などのやりがいを求めたから
開業医となると、医師としてのスキルだけでなく、
経営者としてのスキルも必要となります。
クリニックのトップとしての責任が伴いますが、そのやりがいに魅力を感じて開業をするという医師も多いのです。
経営者となると収入の増加も見込めますので、勤務時間や収入面などで家族からの要請があるというケースもあるようです。
起業してクリニックを開業する問題点
開業医になれば、自分の医療を追求でき、時間にも余裕が出てくるでしょう。
しかしメリットばかりではありません。
起業してクリニックを開業する前に、知っておきたい
開業医の問題点はこちらです。
- 患者の取り合いになる
- 経営者としてのスキルも必要
- トラブルは自分で処理をする
患者の取り合いになる
日本の人口は減少傾向にあり、都市部に人が集まってきています。
地方では病院が足りないという現象がおきている一方で、都市部では医師やクリニックが飽和状態にあります。
「開業しても患者さんが増えない」という悩みを抱えている開業医も少なくありません。
新規の患者さんを増やし、かつリピートしてもらわなければ病院経営は成り立ちません。
地域のクリニックとは患者の取り合いをするのではなく、紹介し合えるような良い関係を築いていけると理想的です。
経営者としてのスキルも必要
医師として求められるスキルとは、プロフェッショナリズムや医学知識、患者ケアやコミュニケーション能力です。
開業して経営者となるのであれば、この医師のスキルに加えて、経営者として先見性や決断力などのスキルが必要になります。
さらに医師免許は必要最低限の資格と捉え、院長は
「防火管理者」の資格が必要になります。
開業医であれば、医療経営コンサルタント・病院経営管理士・医療経営士といった資格もプラスの要素となるでしょう。
トラブルは自分で処理をする
開業医となれば最高責任者となりますので、もしも医療事故が起きたら責任を問われます。
医療ミスを起こさないよう細心の注意を払うのはもちろん、普段から患者さんとの良好な関係を築いておけるようにしましょう。
勤務医時代には不要だった確定申告などの税金の処理も行わなければいけません。
必然的にやらなければいけない業務の範囲が増えていきます。
起業してクリニックを開業する際のポイント
起業をしてクリニックを開業する際には、以下のようなポイントを理解しておきましょう。
- 事前準備を万全にする
- 地域のニーズに応える
- 経営者としての高い意識をもつ
事前準備を万全にする
開業医となるには、事前準備が必要です。
「患者に寄り添う医師になる!」という理念だけでは、残念ながらクリニックがうまくいかない可能性があります。
都市部では患者の取り合いが起こる地域もありますので、開業できる場所を探すのがまず第一関門だといえます。
医療機器の導入やスタッフの確保も大きな問題です。
地域のニーズに応える
クリニックを開業する地域のニーズを知るのは、大変重要です。
子供が多い地域だからといって小児科を開業しようとしても、すでに複数の小児科がある場合はニーズがない可能性があります。
地域の特徴とニーズを考慮し、適切な場所で開業しましょう。
経営者としての高い意識をもつ
日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の 実情に関するアンケート調査」の調査によると、すでに開業している医師の66.5%が「経営に不安・やや不安」と回答しています。
医師としての経験は豊富な人も、経営者としては不安を抱えているようです。
開業医となるとスタッフの雇用や育成もしていかなければいけませんので、広い意味での経営者としての手腕が問われます。
ビジネスパーソンとして起業する理由
開業医ではなく、ビジネスパーソンとして起業するには、以下のような理由があります。
- 正しい医療情報を発信したい
- プライベートを充実させたい
- 医療ベンチャーの立ち上げが容易
正しい医療情報を発信したい
インターネットが普及し、診察に来る患者さんがすでにスマホで症状を検索しているという状況も増えてきています。
間違った情報を信じている人が多く、正しい医療情報を発信していきたいと考えるようになる医師もいます。
直接診察する機会はなくなるかもしれませんが、インターネットを使えば自身の知識を多くの人に届けられるようになるでしょう。
医療の普及の新しいアプローチの形であるといえるでしょう。
プライベートを充実させたい
勤務医だと勤務時間が長く、当直が避けられなかったりと、プライベートな時間を確保できないのが大きな悩みとなります。
日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の 実情に関するアンケート調査」の調査によると、開業動機として「過重労働に疲弊したため」と答えた人は18.6%でした。
医師であってもプライベートを犠牲にするという働き方でなく、プライベートを充実させたいと考え、ビジネスパーソンとしての起業を選ぶ人もいます。
医療ベンチャーの立ち上げが容易
ベンチャービジネスの立ち上げはハードルが高そうな気がするかもしれませんが、医療という閉鎖的な業界での立ち上げは、比較的容易であるといえます。
医師が代表といえば信頼感があり、資金調達の面でも有利になると考えられます。
法律の面から医師ではないと、できないビジネスもあります。
もしも医療ベンチャーで失敗したとしても医師免許を剥奪される心配はありませんので、何度でもやり直しができるでしょう。
ビジネスパーソンとして起業する際の問題点
医師が起業でビジネスパーソンとして起業する際には、このような問題点がありますので留意しておきましょう。
- 医師以外のスキルが不可欠
- 収入の保証がない
医師以外のスキルが不可欠
ビジネスパーソンとして起業するのであれば、ビジネススキルが必要になります。
医療関係のビジネスを立ち上げるとしても、マーケティングやコンサル、ヒューマンスキルといった幅広いスキルが必要不可欠です。
リーダーシップや決断力といった力も必要になり、勤務医時代とは違った人間関係を構築していかなければいけないでしょう。
収入の保証がない
起業すれば勤務医時代よりも収入がアップすると期待するでしょうが、必ず成功するとは限りません。
医療関連とはいえ、新しい世界に飛び込むのですから、最初はうまくいかないかもしれません。
医療をよりよくしたいという理念を掲げていても、その理想ばかりが先行しすぎて、経営とのバランスがとれなくなってしまっては本末転倒です。
大幅に年収が低下する危険もありますので、ビジネスの見通しをたてて安定した収入を得られるようにしましょう。
ビジネスパーソンとして起業するなら週末起業
ビジネスパーソンとして起業を考えているのであれば、まずは週末起業という選択肢があります。
いきなり勤務医を辞め、オフィスを構えて起業をするのはリスクが高すぎます。
医師という本業を持ちつつ、副業で起業するのです。
本業が忙しければ、定期非常勤という働き方に変えて、週末起業をするのもいいでしょう。
まずは副業としてスタートさせ、軌道に乗ってから医師から起業家へ転身すればリスクを回避できるでしょう。
医療起業の成功事例
医師がビジネスパーソンとして起業し、実際に成功した具体例をご紹介します。
- 株式会社メドピア(2004年12月創業)
- 株式会社メドレー(2009年6月創業)
- 株式会社ミナケア(2011年2月創業)
株式会社メドピア(2004年12月創業)
循環器内科医である石見陽氏が立ち上げた株式会社メドピアは、「医師を支援すること。そして患者を救うこと」を理念として掲げています。
医師専用のコミュニティサイト「MedPeer」を運営しており、その参加者は16万人で、医師の2人に1人ともいわれるほどです。
石見氏は大学院時代に医師向け求人サイトを束ねるポータルサイトを立ち上げた経験があり、そこから起業の道へと進みました。
株式会社メドレー(2009年6月創業)
脳神経外科医の豊田剛一郎氏が立ち上げたのが、株式会社メドレーです。
医師たちがつくるオンライン医療事典「MEDLEY」を提供し、医療に関する最新情報を多方面から提供しています。
オンライン診療システム「クリニクス」やオンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」などを手掛け、納得できる医療の実現を目指しています。
株式会社ミナケア(2011年2月創業)
東大病院循環器内科出身の山本雄士氏が立ち上げたのが、株式会社ミナケアです。
病気の治療のためである医療を、健康に投資する投資型医療の実現を目指しています。
治療ではなく予防、健康の維持のために投資するという考えのもと、「データヘルス」支援や「ヘルスケアサービス開発」を支援しています。
医師が起業するには
医師が起業をするには、開業医となるか、医療関係のビジネスをスタートさせるかといった選択肢があります。
新しいビジネスを始めるとしても、医師としての経験やスキルあってこそです。
起業をすれば勤務医より収入アップが見込めますが、必ずしも成功するとは限りません。
週末起業というスタイルを選べば、比較的リスクを抑えながらスタートできます。
「なぜ起業するのか」「起業をして何をしたいのか」といった明確な理念をもち、成功までの道筋をイメージして取り組んでいきましょう。