エキストラクターを使わないほうが良い3つの理由【バイク整備ビギナーに告ぐ】

- グリップのバーエンドを外そうとして、プラスのネジ山がなめてしまった
- ミラーの角度を直そうとして、ナットの角がつぶれてしまった
- マフラーを交換しようとして、スタッドボルトが折れてしまった
上記のようなトラブルは、バイク乗りにとってつきもの。そんなとき、エキストラクターを使ってネジを取り除こうと考えていませんか?
エキストラクターはたしかに便利ですが、初心者が最初に選択するべき工具ではありません。
この記事では、エキストラクターを使わないほうが良い理由と正しい対処法について詳しく解説します。
結論から言うと、エキストラクターのことは忘れ、今すぐバイクショップへ持ち込むのが一番のおすすめ。もちろん、エキストラクターの仕組みや正しい使い方もわかりやすくご紹介しています。
エキストラクターを使うべきかどうか正しく判断するために、ぜひ最後まで読んでみてください。
エキストラクターとは、なめたネジ外しのこと
エキストラクターは、頭が折れたボルトや溝が潰れてしまったネジを抜き取るための特殊工具です。具体的にどのような工具なのか、詳しく見ていきましょう。
工具を受け付けなくなったネジを救出
エキストラクターが必要になる場面は、ドライバーやソケットレンチのような通常の工具でネジを回せなくなったとき。
バイクのあちこちに使われているボルトには、回転させるためのヘッド(頭部)が備わっています。ヘッドの形状には下記のような種類があります。
- プラスネジ(十字溝):十字のくぼみがあり、プラスドライバーで回転させる
- マイナスネジ(一文字溝):一本の直線状のくぼみがあり、マイナスドライバーで回転させる
- 六角ボルト:ヘッド部が六角形になっており、スパナやソケットレンチで回転させる
- 六角穴付きボルト(キャップボルト):六角形のくぼみがあり、六角棒レンチで回転させる
- トルクスヘッド:星型のくぼみがある特殊ネジ。トルクスドライバーで回転させる
ヘッドが摩耗したり変形したりすると、通常の工具では回せなくなってしまうため、エキストラクターの出番となります。
回すほど逆ネジが食い込む仕組み
エキストラクターは、以下のような手順で使用します。
- 取り外したいネジやボルトの中心に小さな穴を開ける
- 穴にエキストラクターを挿入し、ハンマーで叩いて固定する
- レンチなどを使ってエキストラクターを反時計回り(通常のネジを緩める方向)に回す
エキストラクターを回すと、その鋭い溝がネジの内部に食い込みます。回せば回すほど、エキストラクターはネジにしっかりと噛み合い、最終的には一体化してネジごと回せるようになるのです。
なぜ使わないほうがいいのか?3つの理由
エキストラクターは、一見すると万能工具のように思えるかもしれません。しかし、初心者にとっては、むしろ使わないほうがうまくいく場合が多いのです。ここではその理由を、3つのポイントに分けて解説します。
1.失敗したときのダメージが大きい
最大のリスクは、失敗した際のダメージの大きさにあります。具体的には、エキストラクター自体が折れてネジ穴の中に残ってしまうケース。エキストラクターは通常のボルトよりもはるかに硬いので、かえって事態を悪化させてしまいます。
エキストラクターを使う前の状態なら、バイクショップで簡単に日帰りで処置できるものがほとんどでしょう。しかし、エキストラクターを折り込んでしまうとそうはいきません。最悪の場合は部品ごと交換が必要になるなど、時間も費用も余計にかかってしまうのです。
2.慣れないと失敗する率が高い
「失敗しなければ良いのでは」と思われるかもしれませんが、エキストラクターは初心者にとって扱いやすい工具とは言えません。経験豊富な整備士でさえ緊張を強いられる作業です。エキストラクターは日常的に使用する工具ではないため、練習の機会も限られています。実際の状況で初めて使用することは、失敗のリスクが非常に高いと言えるでしょう。
失敗しやすいポイントに以下のようなものがあります。
真っすぐに下穴をあけるのが難しい
硬い金属であるネジやボルトに、ドリルで真っすぐに穴を開ける必要があります。下穴の位置や角度が中心から外れると、ボルトに対してエキストラクターが斜めに挿入されてしまい、回転軸がずれることで折れるリスクが跳ね上がります。下穴をあける際にドリルを折ってしまう可能性も考えられます。
エキストラクターが折れない範囲で力をかけるのが難しい
エキストラクターの強度以上の力でネジが固着している場合、無理に回そうとすれば折れてしまいます。どの程度力を加えたら折れるかは、感覚的に捉えるしかありません。そして、感覚を養う方法は「何本か折ってみる」ことしかないのです。
2.バイク整備では有効でないことが多い
バイクのボルトやネジは、熱やサビ、振動などによって強固に固着している場合があり、エキストラクターでは太刀打ちできない可能性が高いのです。エキストラクターは緊急用の工具なので、通常の工具より大きな回転力をかけることはできません。
中には、ソケットレンチにエクステンションバーを接続して全力で回そうとしても、びくともしないようなケースも。そんなボルトをエキストラクターで回そうとしても、無謀な試みに終わってしまうでしょう。
また、バイクの部品は、アルミやマグネシウムなど、意外に柔らかい素材で作られているものも少なくありません。無理に力を加えると、部品自体を破損してしまう可能性もあります。
エキストラクターを選ぶ場合
エキストラクターはリスクが大きく、優先的に使うことはおすすめできません。エキストラクターは最後の手段に近い選択肢と考えてください。 初心者がそのような難しい状況に陥った場合、自分で修復するのはもはや困難です。基本的には、バイクショップに持ち込むのが最も良い選択肢でしょう。
では仮に、エキストラクターの使用法に習熟しているとしたら、どんな場合に使用するのが適切なのでしょうか。ここでは、エキストラクターを使用するのに適したケースについて、参考までにご紹介します。
ヘッドが折れて奥まったところにネジがある
ボルトなどが途中で折れてしまい、完全にヘッドがない状態では、ほとんどの工具が役に立ちません。特に、ボルトの残りがネジ穴の奥深くに埋まっている場合は、ネジにアクセスすることすら困難です。ネジの残りの部分が露出していないケースでは、エキストラクターが唯一の解決策となる可能性があります。
初めて使うなら練習してからがおすすめ
エキストラクターを使い慣れていない場合は、いきなりバイクのボルトに使うのではなく、事前に練習しておくことをおすすめします。練習なしで本番の作業に臨むのは非常にリスクが高いです。 練習を行う際は、古い金属片や不要なネジを使用するのが良いでしょう。正しい穴あけの方法、エキストラクターの適切な挿入角度、適切な力加減などを感覚的に覚えることが重要です。特に、エキストラクター自体が折れる感覚を一度は体験しておいた方が良いでしょう。「これ以上回したら折れる」という感覚を養うには、実際に折ってみることが一番の近道です。
ただし、練習した上でもなお、エキストラクターは最後の手段と考えるべきです。ほかのすべての方法を試し、かつ部品の交換よりもリスクが低いと判断された場合にのみ、エキストラクターの使用を検討してください。
エキストラクターの前にやるべきこと
ボルトやネジのヘッドがなめてしまった場合でも、エキストラクターを使わずに解決できるケースは多々あります。まずはより簡単で確実かつ安全な方法から試すのが良いでしょう。ここでは、トラブルに遭遇した際の対処法について、順番に詳しく解説します。
ヘッドが生きていればまだ可能性あり
まずは落ち着いて、ヘッドの状態を確認してください。
以下の2点をチェックしましょう。
- ボルト自体が途中で折れておらず、ヘッドが残っているか
- ヘッドに掘られた溝またはヘッドの角が、わずかでも残っているか
1.ヘッドがなければ対処は難しい
ボルトが折れてヘッドそのものが欠損してしまっている場合、上記「エキストラクターを選ぶ場合」に該当します。基本的に、DIYでの対処は初心者の手に負えないと判断してください。
2.折れていなければ対処できる可能性大
折れてさえいなければ、対処できる余地が残されている可能性は高いです。完全になめてしまったと思っても、大抵わずかな形状は残されているもの。焦ってエキストラクターに頼る前に、以下の方法を試してみましょう。
共通手順|清掃、注油、脱脂
どのような種類のネジやボルトであっても、準備段階として最初にやるべきことがあります。清掃、注油、脱脂の3つを必ず行いましょう。
1.清掃
ネジに効率良く力を伝えるには、工具とヘッドの形状が密着していることが重要です。汚れやサビが間に入らないよう、ワイヤブラシやエアダスターを使ってネジやボルトの周辺を丁寧に清掃しましょう。
2.注油

WD-40やラスペネなど、浸透性の高い潤滑油を使用します。潤滑剤をネジの周りに十分に吹き付け、10分から15分ほど待ちましょう。これにより、潤滑剤がネジの隙間に浸透し、ネジが回りやすくなります。
3.脱脂
ヘッドの形状にパーツクリーナーを軽く吹きかけ、余分な油分を拭き取ります。工具との接触部に油分があると滑りやすいため、必ず行ってください。
十字溝の場合|ショックドライバー(インパクトドライバー)を使う
プラスドライバーで回す十字溝の場合、ショックドライバー(ハンドインパクトドライバー)が効果的です。ショックドライバーは、衝撃力を回転力に変換する機構を備えた工具。溝に押し付ける力も強力なので、わずかでも溝が残っていれば回せる可能性があります。
使い方の手順は以下のとおりです。
- ネジの頭にショックドライバーをセットする
- ハンマーでショックドライバーの後部を叩く
- 瞬間的な回転力が発生する
六角ヘッドの場合|ロッキングプライヤーを使う
六角ボルトやナットの場合は、ロッキングプライヤー(バイスグリップ)が有効です。ロッキングプライヤーは、対象を強力に挟み込んだままロックできる工具。握り込む際に力が必要ですが、しっかりとつかめていれば、滑らかに削れてしまったナットでも強力な回転力をかけることができます。十分な作業スペースを確保できるパーツであれば、かなり有効と言えるでしょう。挟み込む力は工具自体の大きさに依存するため、力に自信のない人ほど大きめのサイズを選ぶのがおすすめです。
以下の手順で使用します。
- ロッキングプライヤーの後端についたつまみを回し、十分に広げる
- ヘッドを挟み込んでみて、可能な限りロッキングプライヤーの幅を狭めていく
- 全力で握りこみ、ヘッドを挟んだ状態でロックする
- 反時計回りにプライヤーを回す
ソケットが使用可ならツイストソケットを使う
ソケットレンチが使用可能な場合、ツイストソケットを使うと良いでしょう。ツイストソケットは花形に見えるくぼみがあり、内部が逆回転のスパイラル状の歯になっています。回すほどヘッドに食い込み、ほとんど角の落ちたヘッドでも回せる可能性があります。通常のソケットレンチと同じように使用できるため、初心者でも扱いやすいでしょう。
可能なら加熱すると回りやすい
使える場面は限られますが、ネジやボルト(またはその周辺)をヒートガンや小型バーナーで加熱するのも有効です。加熱することで周辺の金属が膨張すると隙間が生まれ、固着が緩みます。冷却剤でボルトを急冷すればさらに大きな効果が望めるでしょう。
ただし、基本的には、取り出したパーツ単体についてのみ使用可能な方法だと考えてください。車体を直接加熱することは大きなリスクを伴います。樹脂製のパーツに熱が伝わって溶かしてしまう可能性もあるため、初心者にはおすすめしません。
上級編|ヘッドが完全にダメなケース
上級者やプロの整備士が使う方法も、参考までにご紹介しましょう。一般のユーザーが安易に手を出せる方法ではありませんが、十分な設備と経験があれば有効です。
リューターやタガネで溝を切り直す
完全にヘッドの溝や形状がなくなってしまった場合でも、リューターやタガネを使えば溝を再生できます。
- リューターを使用する場合
- リューターに金属切削用の小径ビットを取り付けます。
- 潰れたヘッドの中心に新しい溝を切り込みます。この溝は、マイナスドライバーがしっかりとフィットするようにします。
- 新しい溝にマイナスドライバーを挿入し、慎重に反時計回りに回してネジを緩めます。
- タガネを使用する場合
- タガネを潰れたヘッドの中心に当てます。
- ハンマーでタガネを軽く叩き、新しい溝を掘ります。
- 新しい溝に適した工具を使ってネジを緩めます。
鉄棒を溶接する
金属溶接が可能な環境があれば、ネジやボルトに直接鉄棒を溶接する方法もあります。
湾曲した鉄棒をアーク溶接機でネジに溶接し、鉄棒を回転させることでネジを回すというもの。 効果的ではありますが、高度な溶接スキルが必要な上、周囲の部品を熱で損傷させるリスクがあります。溶接の熱でネジが膨張して余計に固着してしまう可能性もあるため、ほかにどうしようもない場合に損傷を覚悟で行う方法です。
タガネやポンチで叩いて回すのは素人には無理
なめたネジへの対処法として、タガネやポンチでネジの端を叩いて回す方法が紹介されていることがあります。試してみれば分かりますが、素人が実行してもまず成功しないでしょう。これは職人芸の域とも言える技術です。失敗すれば他のパーツに傷をつけてしまう可能性が高いため、一般の作業者にはおすすめしません。
エキストラクターの使い方はセンター出しが命
エキストラクターを効果的に使用するには、正確なセンター出しがポイントとなります。以下の手順に従って作業を進めましょう。
1.センターポンチでマーキングする
取り除きたいネジの中心に、センターポンチでマーキングします。あらかじめくぼみを作っておくことで、ドリルで正確に中心を狙えます。中心からずれるとエキストラクターが折れる原因になるため、慎重に行いましょう。
2.細目の径から下穴を開ける
センターポンチで作った凹みをガイドに、ドリルで下穴を開けます。最初は細い径のドリルビットから始め、徐々に大きな径のビットに変更していきましょう。エキストラクターのサイズに合った径まで拡大してください。
3.慎重にエキストラクターをはたき込む
エキストラクターを下穴にまっすぐ差し込み、ハンマーで軽く叩いて固定します。強い力で叩きすぎると、エキストラクターが折れる可能性があるので注意しましょう。
4.少しずつ力をかけて回す
タップハンドルやレンチを使って、少しずつ反時計回りに回します。くれぐれも急に力をかけず、徐々に力を加えて回転させてください。無理な力を加えると、エキストラクターが折れる原因になります。途中で抵抗を感じたら、滑らかに回るところまで一旦戻し、潤滑剤を塗布してから再度試してみましょう。
5.奥へねじ込んで手前をタップがけも有効
ネジ穴の出口付近が損傷している場合、あと一歩のところで回りきらないことがあります。その場合は一旦ネジを時計回りに回して奥へ押し込み、手前のネジ山にタップを立てて修正するとうまくいく可能性があります。
6.回らないときは無理しない
エキストラクター自体が折れてしまう最悪の事態を防ぐため、くれぐれも無理な力をかけず慎重に作業してください。うまく回らない場合は次の方法を試してみるのも良いでしょう。
- 繰り返し潤滑剤を吹いて時間を置く
- ヒートガンで加熱してみる
どうしても回らなければエキストラクターを取り外し、バイクショップに持ち込みましょう。
エキストラクターの出番を減らす対策
エキストラクターは緊急時の手段なので、出番がないに越したことはありません。ここでは、エキストラクターが必要になるようなトラブルを極力減らすための対策についてご紹介します。
プラスネジは押す力が9割
プラスドライバーでネジを回す際、回す力に意識が向いてしまいがちなものですが、実は押し込む力のほうが重要です。プラスネジを扱う際は以下の点に注意してください。
- ドライバーを強く押しつける
- 適切なサイズのドライバーを使用
- ドライバーの先端が摩耗していないか確認
力の加減は押す力が9割、回す力が1割と言っても過言ではありません。しっかりと圧力をかけ、カムアウト(ナメてしまうこと)を防ぎましょう。
ソケットは適切なものを
ソケットレンチを使用する際は、回そうとするヘッドのサイズにあったものを選ぶだけでなく、精度の高い工具を使用することも重要です。安価な工具は精度も低い傾向があり、なめやすい可能性があるため注意してください。ソケットは12角よりも6角のほうがヘッドとの接触面積が大きく、トラブルを回避しやすいでしょう。
無理に力をかける前に注油
ネジやボルトが固着していると感じた場合、すぐに力をかけるのではなく、まず注油することを考えましょう。浸透潤滑油を繰り返し使用することで、固着したネジやボルトも少しずつ緩んでくることがあります。
まとめ|エキストラクターは最終手段
この記事では、バイク整備初心者がエキストラクターを使わない方がいい理由と、ボルト・ネジがなめた際の対処法について解説しました。
エキストラクターは便利な工具ですが、使い方を誤るとボルトや工具を破損したり、バイク本体を傷つけてしまう可能性があります。あくまでも最終手段として考え、慎重に判断してください。
愛車を長く安全に楽しむためにも、無理せずプロの力を借りる勇気も大切ですよ。