負圧コックの仕組みとは?バイク初心者にも分かりやすく解説

キャブレター車に乗っているライダーなら、燃料コックの操作は日常的なものでしょう。燃料コックには、2つの種類があることをご存知でしょうか?そのうちの一つが「負圧コック」です。
負圧コックは、ガソリン供給を制御する重要なパーツ。しかし、負圧コックの仕組みや役割を正確に理解しているライダーは少ないかもしれません。
この記事では、負圧コックの仕組みや操作方法、そしてメンテナンスのポイントについて詳しく解説します。
小さなパーツですが、仕組みを理解しているのといないのとでは、愛車の扱いかたも違ってくるというもの。正しい知識を得るために、ぜひ最後まで読んでみてください。
負圧コックとは、負圧式燃料コックのこと

負圧コックは、燃料コックの一種。ガソリンの供給をコントロールしています。ウォーターサーバの蛇口をイメージすれば分かりやすいでしょう。燃料タンクのすぐ下に取り付けられており、エンジン側へガソリンを送ったり止めたりするバルブの役割をしています。
燃料コックがあるのはキャブレター車のみ
負圧コックは、燃料タンクとキャブレターの間に配置されています。
現代のFI(フューエルインジェクション)搭載バイクでは電気制御で燃料供給を行うため、燃料コック自体が不要になりました。 ※ 例外として、ヤマハのSR400はFI仕様でも燃料コックを装備
2000年代頃まではキャブレター車が主流だったため、まだ中古車市場にはキャブレターと燃料コックを備えたバイクが多く出回っています。特に、旧車を好むライダーにとっては必須の知識と言えるでしょう。
燃料コックにはガソリンメーターの役目もある

キャブレター式のバイクにおいて、燃料コックはとても重要です。重要性を以下の表にまとめました。
機能 | 役割 | 機能がない場合の問題 |
---|---|---|
燃料供給制御 | タンクからキャブへの燃料流量を調整 | オーバーフローからの燃料流出 ガソリン漏れ |
エンジン保護 | 停止時の燃料遮断 転倒時のガソリン漏れを防ぐ | エンジンダメージリスク上昇 車両火災の危険 |
燃費効率向上 | 必要時のみ燃料供給 不要な消費抑制 | 燃費効率悪化 |
リザーブ機能 | ガソリンがないときの予備供給 急な燃料切れ防止 | ガソリン残量の把握が必須 予期せぬ燃料切れの恐れ |
長期保管安全性 | 不使用時の燃料遮断 燃料系統トラブル軽減 | 長期保管時のトラブル増加 |
日常的に意識することが多いのは、リザーブ機能でしょう。キャブレター式のバイクは燃料メーターのないモデルが多いため、ガソリンの残量を自分で把握する必要があります。うっかり燃料切れを起こしてしまった場合、リザーブ機能がなければガス欠のまま動けません。燃料コックのおかげで、タンクが完全に空になる前に残量が少ないことを察知できるのです。リザーブを下ろせばたいてい20〜30kmは走れるため、最寄りのガソリンスタンドまでたどり着けるでしょう。
リザーブ機能以外にも、エンジン保護と安全性確保の観点から重要な役割を担っています。特に負圧コックは、エンジンの稼働状態に応じて自動的に開閉するため、従来の手動式コックよりも安全性と利便性が向上しています。
負圧式は、重力式の「OFF」を自動化したもの
燃料コックには主に「重力式」と「負圧式」の2種類があります。負圧式はあとから開発された改良型で、1970年代後半頃から普及しました。
重力式は、ガソリンがタンクからキャブレターへ自然に流れる仕組み。手動操作で、ON(走行時)、OFF(停止時)、RES(リザーブ)の3ポジションを持つ従来型のコックです。エンジンが停止していても、レバーがONの位置にあるとガソリンが流れ続けます。
負圧式は、エンジンの吸気ポートに発生する負圧を利用してガソリンを供給します。エンジンが停止しているときはガソリンが流れません。ON、RES、PRIのポジションがあり、PRIはエンジンが停止していてもガソリンを供給するためのポジションです。
負圧式のメリットは、自動的にガソリン供給がストップするため、オーバーフローのリスクが低いこと。重力式では手動でコックをOFFにする必要があります。一方で負圧式のデメリットは、ダイヤフラムやOリングの劣化によるトラブルが発生しやすいことでしょう。メンテナンスの容易さでは、構造のシンプルな重力式に分があります。
特徴 | 重力式燃料コック | 負圧式燃料コック |
---|---|---|
ポジション | ON / OFF / RES | ON / RES / PRI |
燃料カットの方法 | 手動(OFF) | 自動 |
安全性 | OFFにし忘れると危険 | オーバーフローのリスクなし |
メンテナンス | 容易 | 部品劣化によるトラブルあり |
負圧コックの内部構造と仕組み

負圧とは、簡単に言えば「大気圧よりも低い圧力」のこと。厳密には少し違いますが、「真空」と言ったほうがイメージしやすいかもしれません。スポイトや注射器で液体を吸い上げるのと同じ原理です。
負圧をどのように利用しているのか、負圧コックの構造について見ていきましょう。
負圧コックの動作原理
負圧コックの動力源は、エンジンの吸気ポートに発生する吸入負圧。
以下のような流れでガソリン供給をコントロールします。
- エンジンが始動すると、ピストンの動きによってシリンダー内に一時的な真空状態(負圧)が生じる
- 負圧がホースを通じて負圧コックに伝わると、内部のダイヤフラムが変形して燃料流路が開く
- エンジンが停止すると負圧がなくなる
- スプリングの力でダイヤフラムが元の位置に戻り、燃料流路が閉じる
コック内部にはダイアフラムとスプリングが組み込まれており、エンジン停止時にはスプリングがダイアフラムを押さえつけることで燃料流路を閉じています。エンジンが始動すると負圧でダイアフラムが引っ張られ、燃料通路が開くという仕組み。
エンジンを切ると自動的にコックが「OFF」と同じ状態になるため、燃料漏れやオーバーフローを防ぐことができるのです。
負圧コックを構成する部品
負圧コックは、以下のような部品から成り立っています。
パーツ名 | 機能 |
---|---|
ダイアフラム | 負圧に反応して動き、燃料通路の開閉を制御する薄い膜 |
スプリング | ダイアフラムを押し戻し、燃料通路を閉じる力を作る |
Oリング | 燃料通路のシールを行い、漏れを防止する |
燃料通路 | ガソリンタンクからキャブレターへの燃料の経路 |
負圧ホース | エンジンからの負圧をダイアフラムに伝える経路 |
レバー | ON、RES、PRIの位置を切り替えるための操作部 |
フィルター | ガソリンタンク内の不純物を除去する |
ダイアフラムやOリングなどの部品は経年劣化する可能性があるため、定期的な点検とメンテナンスが重要です。
負圧コックの操作方法

負圧式コックの使い方は、従来の重力式コックとは異なる点があります。
正しい使用方法と各ポジションの役割は以下のとおりです。
- ON(オン)ポジション:通常走行時に使用するポジションです。エンジンが始動すると自動的に燃料が供給されます。エンジンが停止すると、燃料の供給も自動的に止まります。ほとんどの場合、このポジションで使用します。
- RES(リザーブ)ポジション:燃料が少なくなり、ONポジションでエンストした場合に使用します。タンク底部の予備燃料を使用するため、給油までの緊急用として機能します。
- PRI(プライマリー)ポジション:エンジンが長期間停止していた場合や、燃料切れでエンジンが停止した後の再始動時に使用します。このポジションでは、エンジンの負圧に関係なく強制的に燃料を供給します。
OFF(オフ)ポジション:バイクを長期間使用しないときや整備作業時に、燃料の供給を完全に停止します。キャブレターへの燃料漏れを防止する役割もあります。
使用上の注意点として、以下のポイントに留意してください。
- エンジン始動時は、まずONポジションにセットします。セルモーターを数秒回してから始動操作を行います。これにより、負圧コックが作動し、燃料が供給されます。
- PRIポジションを使用した後は、必ずONポジションに戻してください。PRIポジションのままだと、エンジン停止時も燃料が流れ続け、オーバーフローの原因となります。
- 短時間の停車時は燃料コックをONポジションのままでも構いません。負圧コックは自動的に燃料の流れを遮断するため、OFFポジションは不要です。
- RESポジションを使用した後は、給油後にONポジションに戻すことを忘れないでください。RESポジションのままだと、予備燃料を使い切ってしまう可能性があります。
- 燃料漏れやエンジンの始動性に問題がある場合は、負圧コックの故障の可能性があります。その場合は、専門店での点検・修理を受けることをおすすめします。
基本的には「ON」の状態で使い、ガス欠のときだけ「RES」にして給油したら「ON」に戻す、という使い方がメインです。こまめに給油していればリザーブを使う必要はありませんが、長期間そのままでいるとタンク内に不純物が溜まってしまう可能性があります。1ヶ月に1回程度はリザーブで回すようにすると良いでしょう。
負圧コックのメンテナンス
基本的に、負圧コックは一般のライダーが日常的に自分でメンテナンスするパーツではありません。燃料系統のトラブルがない限り、定期点検時にバイクショップでチェックしてもらっていればOKです。
ただし、ダイヤフラムやガスケット、Oリングといった樹脂パーツは経年劣化で性能が落ちるため、年式の古いバイクや購入したての中古車では注意が必要でしょう。
以下のようなトラブルが発生した際は、すぐに修理が必要になります。
- コックやホースからのガソリン漏れ
- 負圧ホースの気密漏れによる出力低下
- コックのフィルター詰まりによるガス欠
車種や修理業者によって費用は異なりますが、おおよそ2万円以内程度で交換修理してもらえるでしょう。
DIYで分解清掃する場合
自分で作業する場合は、以下の手順で行います。
- 負圧コックの取り外し
- 燃料タンクのコックをOFFにして、燃料ホースと負圧ホースを外します。
- 負圧コックをバイクから取り外します。
- 分解と点検
- 負圧コックを分解し、内部のダイヤフラムやOリングの状態を確認します。ダイヤフラムが硬化していたり亀裂が入っている場合は交換が必要です。
- レバー部分のパッキンも摩耗や劣化がないか確認します。必要に応じて交換します。
- 清掃
- コック内部やパイプのストレーナーに詰まった汚れやサビをキャブレタークリーナーで洗浄します。
- パーツクリーナーで脱脂し、組み付け時にはシリコングリスを薄く塗ります。
- 組み立てと取り付け
- 清掃後、すべての部品を元通りに組み立てます。
- 負圧コックをバイクに再取り付けし、燃料ホースと負圧ホースを接続します。
- 動作確認
- 負圧ホースを吸引して、燃料ホースからガソリンが流れるか確認します。正常に動作する場合はメンテナンス完了です。
必ず燃料タンクを空にし、火気に注意してください。交換パーツは純正部品または信頼できるメーカーの部品を使用しましょう。自信がない場合は、バイクショップに依頼することをおすすめします。
まとめ

この記事では、バイク初心者の方向けに、負圧コックの仕組みや役割、メンテナンス方法について解説しました。 負圧コックの仕組みや役割を理解することは、安全で快適なバイクライフを送る上で欠かせません。
愛車についてより深く知るために、この記事がお役に立てれば幸いです。