開業医と勤務医の年収を比較|診療科ごとの平均年収と年収アップの方法

開業医と勤務医では、年収にどのような差があるのでしょうか。

開業医が成功するためには、医師としてのスキルはもちろん、立地やクリニックの設備、評判や院内スタッフの力量も関係してくるでしょう。

「開業すれば絶対に年収〇〇万円以上」というボーダーラインがあるわけではありませんが、勤務医と開業医の年収のデータや、診療科の違いによる平均年収を確認しておくといいでしょう。

開業を検討されている場合は、ご自身のビジョンと照らし合わせながら、開業のイメージを膨らませていきましょう。

開業医と勤務医の年収

開業医と勤務医の年収

開業医になるのか、勤務医でいるのか、という人生設計を考えた時に、大きく影響するのは収入です。

医師としてライフプランを考え、開業すべきかを検討・考慮しなければいけません。

開業医と勤務医の違いは収入だけではありませんが、
まずは収入面についてどのような違いがあるのかを考えてみましょう。

開業医と勤務医の年収を比較

厚生労働省のデータによると、勤務医の年収は約1,428万円です。
(参考:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」

一方、開業医の年収は約2,807万円となっています。
(参考:厚生労働省「医療経済実態調査」

このような数字だけを見ると、開業医の方が年収が高く、2倍近い金額になるといえます。

「年収」の意味の違いを知る

ただし開業医と勤務医は、年収の額面だけで比較するべきではありません。

税金の違いがありますし、開業医は経費が多くかかるという側面があるからです。

例えるならば、勤務医はサラリーマン、開業医は個人事業主となり、経費を引いた所得が開業医の実質的な収入となります。

開業医の年収には、税金・借金返済・経費が含まれていますので、これらを引いた金額を考慮すべきです。

診療科別の開業医の平均年収

開業医の年収は、診療科によっても異なるため、診療科ごとの平均年収も確認しておきましょう。

ただし診療科だけの違いで年収が決まるわけではなく、実際には医師のスキルや立地といった他の要素も影響すると覚えておきましょう。

診療科の違いによる、平均年収は以下のようになっています。

診療科平均年収
小児科3,681万1千円
整形外科2,988万8千円
皮膚科2,709万9千円
精神科2,587万9千円
内科2,424万円
外科1,977万4千円
耳鼻咽喉科1890万5千円
産婦人科1,834万3千円
眼科1,511万9千円
その他2,355万円
全体2,374万円2千円

参考:中央社会保険医療協議会「第22回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」

小児科医の年収

小児科医の年収

小児科医の平均年収は3,681万1千円となっており、他の診療科と比較すると高水準です。

開業して評判を上げるためには、子供向けの内装やキッズスペースのため開業資金が必要になるでしょう。

子育て世代はインターネットを使っての情報収集に慣れていますので、予約の取り方、口コミも患者さま獲得のための重要な要素となると考えられます。

医師だけでなく、受付スタッフや看護師も優しい印象の人が望ましく、子供が安心して受診できるような人材確保も課題です。

小児科医として信頼される存在になるためには、子供とその親との信頼関係が大切です。

整形外科医の年収

整形外科医の平均年収は2,988万8千円となっています。

開業する際に必要なのは、整形外科としての設備投資です。

レントゲン設備、温熱治療器、超音波治療器といったリハビリ機器を揃えなくてはいけません。

これらの設備投資は、開業医としての経費となります。

どこまでの設備を揃えるべきか、また腕の良い理学療法士の獲得にも尽力するべきです。

交通事故に遭った患者さまだと、他の診療科との連携が必要になる場合もあります。

皮膚科医の年収

皮膚科医の年収は2,709万9千円となっています。

年齢や性別を問わず、幅広い層の患者さまが訪れる診療科で、定期的に訪れるという人も少なくありません。

保険診療を扱う皮膚科としての診療だけでなく、美容皮膚科も行うと年収アップにつながります。

美容皮膚科は自由診療となり、保険診療よりも利益率が高くなります。

精神科医の年収

精神科医の年収は2,587万9千円となっています。

他の診療科と比較すると、設備投資が少なくすむという特徴があります。

ストレスやうつ病といった精神的疾患を専門的に治療する診療科は、緊急性の高い患者さまが訪れる機会は珍しいです。

つまり精神科医は、患者の数と年収が比例しやすい診療科であるともいえます。

地域包括ケアシステムの構築が進んでいますので、病院から地域に移った患者さまの経過観察を行う精神科医は重宝されるでしょう。

内科医の年収

内科医の年収

内科は患者さまの数が多い診療科であり、クリニックの数が足りないといわれているほどです。

平均年収は、2,424万円となっています。

患者さまを獲得しやすい診療科なので、できるだけたくさんの患者さまを診察し収入を増やしたいと考えるかもしれません。

しかし1人1人への対応が冷めた印象になってしまうと、患者さまが離れてしまうかもしれません。

体調不良で来院する患者さまは不安や苦痛を抱えており、不満や怒りを感じやすい状態なので、安心できるような診察を心がけましょう。

外科医の年収

外科医の平均年収は1,977万4千円です。

手術が多い診療科であり、1度手術をすると一定期間の通院はありますが、継続的な来院は見込めません。

近年は手術をしたとしても入院期間が短くなるケースもあり、開業医となると患者さまを継続的に獲得するという課題があるかもしれません。

耳鼻咽喉科医の年収

耳鼻咽喉科医の平均年収は1890万5千円です。

外来診療で対応可能、手術をしたとしても日帰りでできるものであったりと、ワークライフバランスを形成しやすいのが耳鼻咽喉科です。

開業医となると、咽頭炎、副鼻腔炎、花粉症などのアレルギー性疾患というように、比較的軽度の疾患に対応をしていくケースが多くなるでしょう。

花粉症など需要の高い診療に特化した技術があるとアピールできれば、患者さまからの信頼を得られると考えられます。

産婦人科医の年収

産婦人科医の年収

産婦人科医の年収は1,834万3千円となっています。

訴訟リスクが高い診療科だといわれていますが、不妊治療を行えば治療費が高額になります。

出産時にはアロママッサージがオプションでつけられたり、最上階で出産祝いのパーティーができるというクリニックもあります。

患者さまにとっても、出産は「人生の中で数回」となる、大きなイベントのひとつです。

このようにアイディア次第の要素で単価を上げられるというのも、特徴のひとつといえるでしょう。

眼科医の年収

眼科医の年収は1,511万9千円となっています。

時代の進化とともにスマホやパソコンの利用、高齢者の増加といった背景があり、眼科医の需要は増加傾向にあるといえます。

日常的に必要なコンタクトレンズを仕様するのに眼科医の処方が必要なので、定期的に来院するという患者さまも多いでしょう。

立地や手術の有無によって年収に差がある診療科でもあります。

開業医のメリット・デメリット

開業医になると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

開業医のメリット

  • 勤務医時代より収入が増える
  • 診療時間など自由に決められる
  • 人間関係の悩みが減る
  • 運営方針が決められる
  • ライフワークバランスを追求できる

開業医となると、勤務医時代よりも収入が増える可能性があります。

場合によっては、「勤務時間が減ったけど収入は増えた」となるかもしれません。

開業医なので、運営方針や診療時間・休診日は自由に設定できます。

スタッフを雇うのも自分自身なので、自分にとって働きやすい人材を採用すれば人間関係の悩みを抱えずに仕事ができるでしょう。

勤務医よりもライフワークバランスを追求できるようになり、自分自身や家族のための時間をとれるようにもなるでしょう。

開業医のデメリット

  • 経営力が必要になる
  • 責任が重くなる
  • 事務作業が必要になる
  • 収入が安定しにくい
  • 開業資金が必要

開業医となると、経営者としての手腕が問われます。

「必ず成功する」「必ず勤務医よりも年収が増える」と、断言できるわけではありません。

医療行為に専念できる環境ではなくなり、事務などの雑務もこなしていかなくてはいけません。

銀行とのやり取りやスタッフ管理も必要になると、覚悟しておきましょう。

経営や集患が難航すると、開業資金の返済に頭を悩ませるという事態になってしまうかもしれません。

さらに医療事故が発生してしまった場合には、経営者として責任を問われる可能性もあります。

地方の開業医と首都圏開業医の違い

開業医地方

地方の開業医と首都圏の開業医は、年収に違いがあります。

地方の開業医の方が、年収が高くなるという傾向があります。

首都圏では大学病院やクリニックや診療所など、多くの競合がひしめき合っており、集患が難しい環境です。

一方、地方は病院の数が少なく、病院が不足しているという状態の地域もあります。

周囲に同じ診療科がないという地域で、ニーズに合うクリニックを開業すれば、年収が高くなると見込まれるでしょう。

開業する年齢による生涯年収の違い

生涯年収という長いスパンでみると、開業する年齢によって生涯年収が異なります

「開業医の方が勤務医よりも年収が高い」と前提に考えると、開業する年齢が早い方が生涯年収が高くなると考えられます。

30代で開業すれば、定年退職までの長期間、開業医としての年収を得られます。

40代で開業すると、勤務医時代の患者さんとの関係が築けているというケースもあります。

キャリアや信頼性が高い50代で開業するという人もいるでしょう。

ただし開業には資金が必要で、返済には時間がかかるという点もよく考慮すべきでしょう。

開業医のピークはいつ?

全ての開業医に当てはまらないかもしれませんが、
開業医の年収は5~9年がピークになる傾向があります。

  • 開業直後はモチベーションが高い
  • 10年程度で競合が増えてくる
  • 借金を返済し終わると安心する

開業直後は当然モチベーションが高く、1日に50人以上診察するというケースも珍しくありません。

特に30代という若い年代で開業すると、体力もあるのでこのような働き方が可能となるでしょう。

開業して10年ほど経つと、周囲に新しいクリニックもできてきます。

10年程度で借金を返済し終わると、自身も年齢を重ねた時期になり、開業当初の勢いがなくなるという場合もあるようです。

開業医の年収を上げる方法

開業医年収上げる

開業医の年収を上げる方法は、患者さまの数を増やす、単価を上げるという方法があります。

コストを削減するのも、収入を増やすという意味では重要です。

患者さまの数を増やす

患者さまの数が増えると、年収が上がっていくと考えられます。

開業したばかりで期待通りに集患できていないようであれば、ホームページやSNSを使った宣伝方法を見直してみましょう。

人的サービスや待ち時間の短縮、設備などで、競合との差別化を図りましょう。

メールやSNSで定期的に情報を発信し、来院を促すのも良い方法です。

患者さまの単価を上げる

患者さまの単価を上げるには、治療の付加価値を高めて診療報酬を上げるという方法があります。

眼科ならレーシック手術、美容整形手術というように、自由診療を導入するのもいいでしょう。

スタッフの知識不足や入力ミス、コミュニケーション不足で診療報酬の請求漏れが起きているのであれば、すぐに改善しましょう。

コストを削減する

収入を増やすためには、人件費や経費のコスト削減も必要になってくるでしょう。

例えば、インターネットでの予約システムを導入すれば、予約受付スタッフは減らせます。

ペーパーレス化や水道・電気の節約、仕入れ単価を見直すという基本的なコスト削減も行っていくといいでしょう。

開業医の年収は条件による

勤務医よりも開業医の方が年収が高い、というデータはあるものの、開業医の年収は条件により異なります。

診療科やクリニックを開業する場所、さらには開業してからの働き方も年収に大きく影響します。

多くの患者さまの診察ができれば年収が増加しますが、開業してからずっと勢いのある働き方はできないかもしれません。

開業には資金も必要になりますので、開業する年齢も考慮するべきです。

これらの条件も重要ではありますが、ご自身のライフワークバランスを考えて、気持ちよく働けるスタイルを考えていきましょう。